旧作から最新作まで、その活動が常にジャンルを超えた人気と注目を集める現代作曲界のスター、スティーヴ・ライヒ Steve Reich(1936–)。東京オペラシティの「コンポージアム 2008」における《18人の音楽家のための音楽》公演での、熱狂する満員の聴衆は今も語りぐさとなっているほどですが、今度はライヒ初期の代表作である、声とアンサンブルのための《ドラミング Drumming》全4部を中心とした演奏会が、今年12月4日と5日に行われます。会場は再び東京オペラシティのコンサートホールです。
ドラミング Drumming(1970–71)
声とアンサンブルのための
パート1:4ペアの調律されたボンゴ
パート2:3台のマリンバ(9人の奏者)、女声
パート3:3台のグロッケンシュピール(4人の奏者)、ピッコロ
パート4:全員のアンサンブル
《ドラミング》は1970〜71年、ライヒがアフリカのドラミングを研究するためガーナに滞在した後に作曲されました。最初期の作品である《イッツ・ゴナ・レイン It’s Gonna Rain》(1965)、《カム・アウト Come Out》(1966)、《ピアノ・フェイズ Piano Phase》(1967)、《ヴァイオリン・フェイズ Violin Phase》(1967)において試みてきたフェイズ・シフティング(phase shifting)技法[※]の、集大成といえる作品であり、打楽器によるアンサンブルによって、85分ノンストップで演奏される超大作です。
全曲を通して1小節=12/8拍子。G♯, A♯, B, C♯音に調律されたボンゴの、A♯の繰り返しによって曲は始まります。奏者が加わりながら、休符を埋めるように1音ずつ音が増え、1小節間のフレーズの繰り返しによるユニゾンが形成されると、フェイズ・シフティングを繰り返し、フレーズとパターンを変容しながら、第2部(マリンバ)、第3部(グロッケンシュピール)、第4部(全楽器)と続きます。4つのパートはそれぞれ独立して演奏することが可能ですが、今回は全曲が通しで演奏される大変貴重な機会といえるでしょう。
[※]複数パート(ほとんどの場合同じ楽器)で同じフレーズを繰り返しながら、一方がテンポを次第に変化させることで、連続的な音のずれ=グラデーションを徐々に生じさせる技法。特にピッチ感の強い楽器においてはこのグラデーションの中で、実際には記譜されていない音やフレーズが聴覚上現れることがあります。
演奏は、コリン・カリー・グループ Colin Currie Group とシナジー・ヴォーカルズ Synergy Vocals。イギリスを代表する若きパーカッショニストとして目覚ましい活躍を見せているコリン・カリー Colin Currieを中心に、2006年BBCプロムスで《ドラミング》を上演するべく結成され、その演奏でライヒから絶大な信頼を寄せられています。
・コリン・カリー・グループの《ドラミング》舞台仕様書(PDF)
「コンポージアム 2008」の名演がまだまだ記憶に新しいシナジー・ヴォーカルズは、1996年の《テヒリーム Tehillim》上演以来、ライヒによって《スリー・テイルズ Three Tails》や、《18人の音楽家のための音楽 Music for 18 Musicians》のヨーロッパ初録音に起用されてきました。正確なリズムと、ダイナミックで透明感のあるコーラスが高く評価されており、世界各地の著名オーケストラやダンスカンパニーとの共演のほか、多くの映画のサウンドトラックにも参加しています。
・シナジー・ヴォーカルズ 試聴音源
1971年の初演以来「スティーヴ・ライヒ&ミュージシャンズ」の独壇場であった《ドラミング》ですが、ここに新たな次元の表現とライヒ自身が認め、世界各地から出演依頼が相次いでいるアンサンブルが、東京でその真価を私たちに見せてくれるでしょう。
プログラムは《ドラミング》の他に、《マレット楽器、声とオルガンのための音楽 Music for Mallet Instruments, Voices, and Organ》、《ナゴヤ・マリンバ Nagoya Marimba》、さらに来日予定のライヒによる《クラッピング・ミュージック Clapping Music》自演(!)も予定されています。
■ 公演の詳細
コリン・カリー・グループ
ライヒ《ドラミング》ライヴ
http://www.operacity.jp/concert/calendar/details/121204.php
2012年12月4日 19:00〜
2012年12月5日 19:00〜
東京オペラシティ・コンサートホール「タケミツ・メモリアル」
[プログラム](両日とも)
スティーヴ・ライヒ:
[1]クラッピング・ミュージック(1972)
[2]ナゴヤ・マリンバ(1994)
[3]マレット楽器、声とオルガンのための音楽(1973)
[4]ドラミング[全曲](1970-71)
[出演]
コリン・カリー・グループ[1-4]
シナジー・ヴォーカルズ[3, 4]
ゲスト:スティーヴ・ライヒ[1]